







手根管
手根管 (carpal tunnel) は長掌筋の深部にあり, 4つの触診できる骨の隆起によって形成される。 これは、手根管の近位部では舟状骨と豆状骨, 遠 位部では大菱形骨結節と有鈎骨鉤である (図 66) 掌側の手根靭帯の一部である屈筋支帯が, 4の骨の隆起の間を走り、線維性および骨性の手根管のを掌側につくっている。手根管の底部は 手根骨によってできている。 この管の中を通っているものは、前腕から手部へ走る正中神経と指の屈筋腱である。
手根管は、その中を通るものが重要であるとともに 手根管の狭窄による手根管症候群がおこりやすいということで臨床的に重要である。 この症候群では正中神経が圧迫され、その結果手の正中神経支配領域の知覚障害と運動機能障害を生じる。まれに、手根管の狭窄がその部位を通る腱を障害し指の屈曲を制限することがある。 手根管の狭窄は、月状骨の前方脱臼、橈骨遠位端のコレス 骨折、慢性関節リウマチにおこる滑膜 などさまざまの原因により生ずる。 あるいは捻挫などによる手関節の外傷による腫脹ペー ジェット (Paget) 病や粘液水腫のような多くの疾患によってもおきる。 手根管症候群と診断するためには,検者は屈筋の上から叩打し, それによって正中神経支配に疼痛を誘発し再現性があることである。
(Tinel 微候)
この症候群に共通の症状 としての指のビリビリする感覚は、患者の手関 節を最大屈曲位にして少なくとも1分間その位置 で保持した時, 再現される (Phalen テスト) 手根管内を触診することはできないが,この機能は手の正常機能に重要であるため、その位置について十分知っておくべきである。
手根管 Carpal Tunnel
解剖
手根管は長掌筋より深層にあり,手関節の前面に位置する。 内側は豆状骨と有鈎骨鉤, 外側は舟状骨結節と三角骨結節, 前方は屈筋支帯, 後方は手根骨に囲まれている. 手根管内に は正中神経,および前腕から手に至る手指の屈筋腱が走行する 手根管は圧迫性の神経障害が生じやすい部位である。検査法 本来, 手根管および手根管内の組織は 触知することはできない。 手根管の辺縁は変形や圧痛があれば触知できる 手根管の浅層を触診すると, しびれ感, 蟻走性微痛感, 疼痛, 手の筋力低下などの症状が増悪することがある.これらの症状があれば,手根管症候群 を示す.
手根管症候群
臨床解説
手根管症候群は正中神経の圧迫神経障害である.圧迫は手関節の屈筋支帯の下で起きる。 感覚障害から萎縮を伴う運動神経の障害までの症状の段階は,圧迫の程度や症状の慢性度と直接的な相互関係がある。 ほとんどの場合, 初期の段階では断続的な感覚障害のみを伴う.
臨床徴候症状
・母指~中指の末端の感覚障害
手と手関節の痛み
握力の低下
■手関節のチネル様徴候 3 検査法 患者の手を回外させて,一方の手で肘 関節を固定する。もう一方の手で打腱器を用い て手関節前面を叩打する
理論的根拠 小指を除く指の正中神経 校のどこ
器を用い
かにしびれるような痛みが出現したら、手根管症候群が示唆される。手根管症候群は、手根横靭帯の炎症による肥厚、月状骨の前方脱臼、関節症性変化または総指屈筋腱の腱鞘炎のいずれかによる正中神経の圧迫を示す
■ファレンテスト 3.4 Phalen’s Test
検査法両方の手関節を掌屈して押しつけ 60秒間そのままにする
横手根靱帯が正中神経を圧迫する. 小指を除 く指の正中神経枝のどこかがしびれるような ら、 横手根靭帯の炎症、月状骨の前方脱臼、関節症性変化または総指屈筋腱の腱鞘炎のいずれ かによる手根管内での正中神経の圧迫を示す。
■手根圧迫テスト Carpal Compression
検査法
患者の手関節と手を伸ばし、患者の手関節を両手で保持し、 手根管の正中神経の上を両手の母指で最大30秒間, 圧迫する
理論的根拠 手根管に機械的な圧迫を加えると 正中神経が圧迫される. 小指を除く指の正中神経枝のどこかがしびれるようなら, 横手根 靭帯の炎症、月状骨の前方脱臼、関節症性変化, 総指屈筋腱の腱鞘炎のいずれかによる手根管内の正中神経の圧迫を示す.
手根管症候群
女性が男性に比べて3~10倍罹患しやすい。
妊娠出産期と更年期に発祥のピークがある。
手根管症候群の多くが、特発性であり、原因不明、女性に多く発症することなどから、先天的な手根管の狭窄を基礎として発症する。
病態
正中神経の圧迫は、手根管の内容物の量的変化や手根管自体の狭窄により惹起する、更に、糖尿病などによる神経自体の脆弱性の存在も関与。
症状臨床所見
夜間、特に明け方に増強、両側性の正中神経領域のしびれや疼痛で発祥する。
進行すれば母指球筋が障害され、ボタンが留めにくいといった手の巧遅運動障害や筋委縮。
手を使う運動で増強し、手を振ったり、手の角度を変えることで警戒するのが特徴。
検査診断分類
各種誘発テストが有効。加えて短拇指外転筋の筋力低下や母指球筋の筋委縮などの特徴的症候が揃えば、診断はほぼ確実。
神経電動検査が最も有効、手根管部での正中神経の局所的電動遅延から確定診断。
ガングリオンや腫瘍などの原因を究明できるMRIや超音波検査
治療
保存的療法、局所の安静や患側腕の拳上、副腎皮質ステロイド薬内服、非ステロイド抗炎症薬NSAIDs、利尿薬、ビタミンB複合体の投与、手根管内への副腎皮質ステロイド薬の注入。
手術療法直視下と内視鏡適応手根人体切開法
誘因
手根管内の内容物増加
ホルモンの影響妊娠出産更年期
非特異性腱鞘炎手の過剰使用による腱鞘炎
特異的腱鞘炎関節リウマチや結核による滑膜炎
浮腫外傷による二次的浮腫、甲状腺機能低下による粘液水腫
腫瘤性病変ガングリオン、脂肪腫
アミロイド沈着アミロイド―シス、人工透析
2手根管の狭窄
退行性変化(変形性手関節症)
骨病変(骨折、脱臼、骨腫瘍)
先天的な手根管狭窄
3正中神経の脆弱性
代謝性疾患(糖尿病)
遺伝的素因(遺伝性脆弱性ニューロパチー)
重複神経障害(頸椎疾患や胸郭出口症候群との合併)
手根管症候群の解剖学的基礎
全9本の外在指屈筋腱は正中神経とともに手根管を 通過する (図 8-39) 腱は, 構造体間の摩擦を軽減する 別々の2つの滑膜性腱鞘によって包まれる。 尺側滑膜 性腱鞘は8本の浅指屈筋腱と深指屈筋腱を、橈側滑膜 性腱鞘は長母指屈筋腱を包む 手関節の長時間で極端 な肢位での手の活動は腱を刺激する。 手根管の閉じた 比較的小さな区画のせいで,滑膜の腫脹は正中神経へ の圧迫を増すことがある. 手根管症候群 (carpal tunnelsyndrome) はこのように発生し、 正中神経領域の痛み と異常感覚によって特徴づけられる。 疾患の進行に伴 い, 母指球筋の筋力低下と萎縮が出現する。 患者の手 根管内圧は手の多くの活動時に増大する “. 手関節運 動の終末域で内圧の増大は最も大きく, 拳を作る際に も大きい。 手根管症候群は長時間のパソコン作業でも みられる。 標準的キーボードのデザインを変えるとタイピング時の極度の運動を減少させ, 痛みの程度を軽減することがある